公演案内
令和5年度(2023-2024)
東京能楽囃子科協議会 定式能
於 国立能楽堂
文化庁文化芸術振興費補助金
(舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))
独立行政法人日本芸術文化振興会
解説 岡本はる奈(小鼓方観世流)
東京能楽囃子科協議会定式能は、白露の夜にふさわしい曲をお届けいたします。九月公演では観世流舞囃子「賀茂 素働」「須磨源氏 窕」狂言「福部の神」一調「松虫」及び宝生流能「天鼓 呼出」を袴能にてご覧いただきます。
【舞囃子】
賀 茂 素働
坂 井 音 雅
( 笛 ) 熊 本 俊太郎 (森田流)
(小 鼓) 森 澤 勇 司 (幸清流)
(大 鼓) 佃 良 勝 (高安流)
(太 鼓) 小 寺 真佐人 (観世流)
夏の京都を訪れた室の明神の神職は下賀茂神社で御手洗川の水汲みをする女性から社の縁起を教えられます。やがて女神が舞った後、辺りの様子が変わり別雷の神(上加茂の明神)が現れます。稲光を轟かして空を翔けた雷神は五穀成就と国土安全の誓いを示した後に還っていきます。
小書「素働(しらはたらき)」では常の場合よりも後シテ別雷神は強くしっかりとした位で扱われます。観世流太鼓の場合は舞台を一巡する際に「高刻」と呼ばれる大きく強く響く手組を繰り返します。またシテの足拍子によって雷鳴のイメージがより強調されます。キリの謡では太鼓・大鼓・小鼓が呼応しあいながら天に登る神を表現します。舞台となった糺の森は真夏に訪れても暗い木陰と澄んだ川の水が涼やかさと神秘性をたたえている場所です。古代の夏の空にとどろく稲光は人々にとって、豊穣の予祝でもあったのです。
須磨源氏 窕
谷 本 健 吾
( 笛 ) 栗 林 祐 輔 (森田流)
(小 鼓) 森 貴 史 (幸 流)
(大 鼓) 亀 井 洋 佑 (葛野流)
(太 鼓) 桜 井 均 (金春流)
舞囃子「須磨源氏 窕」では同様に太鼓の登場する曲でありながら一転して優美な空間が出現します。光源氏がシテとなる唯一の能である本曲は源氏物語の須磨と明石の巻を中心に作られ、鄙で風雅に過ごした光源氏の追憶の舞が見所です。ここで舞われる「早舞」とはアップテンポの舞ではなく、貴人や女性の霊が楽しげにのびやかに舞う、速度は通常よりやや早い程度の舞です。舞の途中より笛は音程の高い盤渉調となり、場面の浮遊感はさらに増します。
小書「窕」は能の場合においては舞の後半で橋掛リに行き、くつろぐ型が加わります。ここで囃子は「流シ」と呼ばれる奏法で一拍一打の等間隔に打ち進み、特殊な場合を除き掛け声はかけません。次第に打音が強まり早まる調子は、天界の一つの兜率天に住む光源氏が天降り、春の月と桜の下で舞う華やかさと高揚感を表します。
【狂 言】
福部の神
山 本 東次郎
山 本 則 孝 山 本 泰太郎 山 本 凛太郎
( 笛 ) 栗 林 祐 輔 (森田流)
(小 鼓) 森 貴 史 (幸 流)
(大 鼓) 亀 井 洋 佑 (葛野流)
(太 鼓) 桜 井 均 (金春流)
毎年北野神社の末社、瓢の神を参詣することにしている都の鉢叩き(空也念仏を唱えて歩く半俗の僧)は、ほかの多くの鉢叩きと待合わせて出かけます。一緒に参拝しているうち瓢の神が現れて鉢叩きの参詣を喜び、めでたく謡い舞って帰っていきます。
鉢や瓢箪を叩きながら念仏を唱える鉢叩きは空也上人を始祖と仰ぐ踊念仏の一つと言われています。中世の空気のなか賑やかな参拝のくだりと瓢箪を彷彿させるユーモラスな面。ほのぼのとした狂言を軽やかに囃子が彩ります。
-休憩15分-
【一 調】
松 虫
小 倉 健太郎
(小 鼓) 鵜 澤 洋太郎 (大倉流)
松虫の音に誘われてあらわれた男の霊が、草陰から響く虫たちの声の中で友との想い出を語ります。やがて鐘が鳴り朝の光が射すと男の姿は消えて虫の調べだけが耳に残るのでした。
今回お役を務められる鵜澤洋太郎氏はこの曲に、故鵜澤速雄氏の想い出を重ねられるそうです。御父上がとりわけ好んだ曲を、そのご友人であり昨年ご逝去の故小倉敏克氏の御長男健太郎氏が謡われることは特別な経験であるとのこと。一調においては謡がどう謡うかは大事であり、この経験を通してそれぞれが担った責務を感じながら共に次の世代として進んでゆく舞台と考えられているそうです。一調「松虫」はいろいろな手(打ち方)が盛り込まれ、手組の華やかな大倉流の鼓は聞く人をあきさせません。謡と鼓が共に呼びかけあう中で、阿倍野の虫の音が皆様の耳に届きますでしょうか。
【袴 能】
天 鼓 呼出
武 田 孝 史
福 王 和 幸
山 本 則 重
( 笛 ) 藤 田 次 郎 (一噌流)
(小 鼓) 観 世 新九郎 (観世流)
(大 鼓) 柿 原 弘 和 (高安流)
中国後漢の代。天鼓の名を持つ少年は天より降ったと言われる鼓を皇帝に差し出すことを拒んだゆえに呂水に沈められます。以来誰が打っても鳴らなくなった鼓を打つために天鼓の父が呼ばれ、失った子どもへの悲しみの中で打った鼓は妙なる音を響かせます。後日、呂水のほとりで営まれた法要にひかれて天鼓の霊が現れて鼓を懐かしみながら舞を舞います。
宝生流の特殊演出である小書「呼出」では、前シテ登場の囃子と謡が省略されワキの呼びかけによって老父は姿を現します。後場の天鼓の舞「楽」は大小の鼓と笛によって囃され、太鼓が入る場合に比べて拍と拍の間の自由度が増します。「楽」とは舞楽を模して舞われる舞事であり、実際の舞楽とは似ていないものの他の舞に比べ大陸的雰囲気をまとっています。再び鼓を打つことができて喜ぶ天鼓の心のように、ゆるやかに始まった囃子はだんだんと調子が早まります。
この能は音楽の持つ力と親と子の愛情・別離の悲しみがしみじみと感じられる曲です。面をかけず装束もなしに演じられる袴能では前シテと後シテは同じ姿です。しかし私たちが時に鏡の中に亡き親の面影を認めるように、そして子の姿にかつての自分を重ねるように、人の姿とはその人ただ一人のものではないのかもしれません。亡父の想いを次世代につなぐ笛・小鼓・大鼓のそれぞれの先生方も舞台と音楽を通してそれを体現されています。
令和5年7月13日 10時 販売開始
申込み受付
○東京能楽囃子科協議会オンラインチケットサービス
○観劇サイト「カンフェティ」チケットセンター
電話受付
0120-240-540(平日10:00~17:00)
国立能楽堂座席表
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